アート作品の購入にはいろいろなエピソードが詰まっています。お気に入りの作家との出会いや、作品を購入するきっかけとなった出来事、また作品が届いてからの想いなど。今回はタグボート取扱い作家・伊藤咲穂さんの作品をご購入されたマルさまのエピソードをご紹介します。
マル 50代・男性・埼玉県在住 |
見たい番組もなく何となくリモコンをいじる息子の隣りで、テレビをボーと座り眺めていると、芸能人の方々が若手の作家さんのアートを気に入ったら買うという番組に目が留まりました。
始めから番組を見ていた訳でもないし、寝起きだし、頭は半分眠ったまま…
そんな状態の中、番組内で茶色い作品が現れたとき、脳がスパンと切り替わったのを覚えています。急激なONです。その作品は、伊藤咲穂さんという作家の作品でした。
「Dead flowers 2016 VI」伊藤咲穂, 80.5 x 65 cm, 素材:和紙、柿渋、膠/技法:柿渋と錆の化学反応
今までの私は、何となくアートは好きだけど現代アートは、何がいいのか分からない。(ピカソ、ゴッホ、好きじゃない…アンディイ???バスキア?+~|訳分からん。バンクシーそれ犯罪じゃないの?)
さらにはコロナ禍によって、世界中が突然崖っぷち!自分の経営する会社も、どうなるのか分からない。この数分前まで自分の家族の事、仕事の事しか考えてなかった私が、「現代アートを知りたい!」そして「この作品が欲しい!」と思いました。
突き動かされるように、携帯でタグボートを検索。「伊藤咲穂」さんの作品ページから「Dead flowers 2016 VI」を見つけカートに入れ、ユーザー登録をして、人生初めてのアート作品を購入!
この一連の流れをネットを切らさずにネット初心者の私が行うのは至難の技でした。しかもテレビ放送中なので、同じようにサイトにアクセスが集中しているのでしょう。なかなかサイトのページが切り替わらず、悪戦苦闘してようやく作品を手にいれました。
番組中では、ゲストの霜降り明星のセイヤさんが伊藤咲穂さんの作品を気に入ったようで、他の作家さんの作品とどちらを買うか迷っていました。伊藤さんには申し訳ありませんが、私は自分で作品を手に入れたいばかりに「買うな!買うな!」と念じながら購入の手続きを続けていました。
『KinKi Kidsのブンブブーン』フジテレビ系列で放送されているバラエティ番組。2020.9.19 OAの回にタグボートが出演しました。
この瞬間から、私のアート人生が始まってしまいました。アートについて「いろいろ知りたい!」と思い、色々なことに挑戦しました。Facebookなどの登録をしないと得ることができない情報が多く、パソコンだってほとんど触れない私が、何とかやりながら考える。手を突っ込んでみる。動画を見る。気になる作家さんがいたら、ギャラリーに電話をしてみる。展示会、ギャラリーに実際に行ってみる。
ギャラリーでは、「こちら作家さんです」と案内され、こちらが恐縮していると気さくに話しかけてくれ、感動しました。
そうして日本のアート界の現状を調べるうちに、値段は思っていたほど高くない。10万円前後で買えてしまう作品が多くあることに気付きました。さらに、作家の方々は自分の身を千切るように悶絶しながら作品を生み出して事。
私自身も、コロナ禍以前より、いろんな事で悩み苦しみ、どうして私にばかりに試練が降り注ぐのだと、思っていました。今も思いますが…。しかし華やかに見える業界の方も意外にも同じように苦しんでいるのだな、みな同じなんだなと思うようになり、少しだけ前向きになりました。
とにかく現代アートは、私の思っていた世界と真逆なのだと知りました。
「Dead flowers 2016 VI」は、華やかで、寂しげで、凜として、艶めかしく、これから少しずつ錆て朽ちはてる、哀れなような楽しみな作品です。
キャンパスの横部分も見逃さないようにするには、透明な額で覆えばいいと思い、タグボートに相談し額装していただきました。しかしこれが結構重たく、壁が心配で机の上に飾っています。額は無くてもよかったかもと思いつつ、いろいろこれからだなと思っております。
この作品がよく今まで販売されずに残っていたな、世の中はただ知らないだけなんだな、勿体ないなと思いました。そしてみんなにも知って欲しいなと。そうすれば、作家さんやギャラリー、コレクター全員が幸せに感じる機会が増えるのではないかと思います。
画像提供:マル様
伊藤咲穂 Sakuho Ito 作品ページはこちら |
気づいたら、涙が出ていて、マル様のエピソードを何度か読み返すうちに「あ、これは自分の作品に対しての言葉なんだ」とわかるまで少し時間がかかりました。
こんな声を聴けたなら、作家として生きて良かった、マル様の感性の豊かさに、私も力をもらっている、、そう感じました。
自分は、食物や、水、睡眠、空気だけじゃなく、それ以外の何かを食べて命が有るなぁと度々思います。
また、番組のゲストであった霜降り明星さんがご購入されなかったことが逆に功を奏して、マル様の元にこの作品が向かって本当に良かったなと思います(笑)
コロナの時期で、経営されている会社で想像もつかないほどの困難があったこと、ネット初心者というところから、ギャラリーのサイトに飛んで、サーバーがダウンしかけた中を掻い潜り、購入に至ってくださった経緯、そして、この作品の購入をきっかけに、アート人生が始まったこと、、、
アートは好きだけれど、現代アートは何がいいのか分からないという状態から、私の作品の購入がきっかけで現代アートに興味を持っていただき、ギャラリーに行くというアクションを起こしてくださったこと、本当に嬉しくありがたいです。
「合理性」が叫ばれる日本社会でアートは正に「非合理性」の極みかもしれません。
しかし、その非合理性という余白によって創造性は生まれ、個々の感性の豊かさに繋がるのではないか、、その人の「社会性」や「体裁」「名前」のようなものが無くなったとき、一体その方の持つ、本質的な軸や感度はどこにあるのか、どのようなものに心打たれるのか。それはこれからの日本にとって非常に重要なテーマだと感じています。
そういった意味でも今回の経緯を知り、日本のアート界にとって購入者様のような方の重要性を再認識させていただきました。
長くなりましたが、本当にありがとうございました。